「何よバカっ!もうなんて知らないっっ!!」

「あーうるせーチビ!勝手にしろっっ!!」

何よ・・何よのヤツ!あたしそこまでチビじゃないしっ!

ちょっとに比べて小さいだけじゃないっ。失礼だしっっ!!

 

 

花火 前編

 

 

「もー・・また喧嘩?」

イライラしながら座ったせいで大きく音をたてるイス。呆れたように笑いながらあたしに話しかけてくるのは親友の遥。

「別にっ?!が一方的にあたしに意地悪してくるだけだしっ。」

ポーチの中に入ってる蜂蜜飴を乱暴に口に入れる。はぁー、と溜め息をついて遥はあたしの飴を一つ取る。

「あっ!あたしの蜂蜜飴っ!」

「あーもう。いい加減素直になりなさいって。」

あたしの叫びは無視される。もちろん、あたしの飴は遥の口の中。

「だって・・だってが」

「だってじゃないのっ!」

あたしの言葉を遮ってぴしゃりと言い放つ遥。言い返せないあたし。

 

 

あたしとはいわゆる喧嘩友達。いっつもくだらないコトで言い合って、次の日もバカみたいに同じようなコトでまた言い合う。

そんなのコトをスキなんだって気付いたのはつい最近のコト。

 

がいつまでもそんなだとクン誰かに取られちゃうよ?クン結構モテるんだし。」

さらっとキツいコト言って、更にあたしの蜂蜜飴を奪う遥。

そう。はモテる。

野球部の先発ピッチャー、運動神経抜群で、成績だっていっつも上位の文武両道。

おまけにあたし以外の女子にはすっっっごく優しい。ルックスだってかなりイイ。

そんな完璧な男がモテない方がおかしい。だから・・いつ誰に取られちゃってもおかしくない。

「別になんて好きじゃないしっ。そんなのあたしに関係ないっ!」

でも、素直になれない。

「なんで真藤センパイの時みたいに素直になんないかなぁ・・あの時のは可愛かったのにー。」

真藤センパイ、っていうのはあたしが前好きだった人。現在高一。

好きだった頃はセンパイ以外の人なんて好きになれないってくらい大好きだった。

でも・・今は違う。センパイのコトを嫌いになった訳じゃない。フラれた訳じゃない。

が隣のクラスの奥石さんと付き合うかもって噂を聞いた時に、あたしの好きな人はセンパイじゃないって気付いた。ただそれだけ。

でも、今センパイがあたしに告白してくれても断ると思う。・・告白されるなんてありえないけどね。

「奥石さん疑惑だってまだ嘘かどうか分かんないし?」

気にしてるコトをさらっと言われて固まるあたし。「泣きそー。」なんて、痛い所を突いてくる。

「そっ、そんなんじゃないっ!」

そう叫んではみるけど、頭の中に浮かんできてしまうのはの顔ばかり。

「うー・・。」

机に突っ伏したあたしの手に、遥が小さな紙をねじ込む。

「なっ、何?!」

驚いて飛び起きたあたしに、遥がとびきりの笑顔で言った。

クン、誘ってみたら?」

紙に書いてあったのは、夏休みの最初の週にある花火大会の日程だった。

「ちなみにあたしは蓮クンと行くからぁ。」

「えっ、蓮くんと?!」

蓮くん、っていうのはの親友で野球部のキャッチャー。

更にめちゃくちゃカッコイイ。それでいてあたしにもすっごぃ優しい。

「そ。だから多分クンはまだフリーだと思うなー?」

悪戯っぽく笑う遥。

そりゃ、一緒に行けたら嬉しいよ?でも・・・無理にもほどがある。

「とりあえず素直になるコトよ!」

あたしのポーチにミルクキャンディを入れながら遥はスパッと言った。

 

 

 

 

あーあ。またやっちまった。

窓際の席で天砂遥と話すアイツを見ながら俺はまた思う。

蜂蜜味の飴を口に入れる彼女。アイツはホントに蜂蜜飴が好き。何であんな甘ったるいモノが好きなのかホント分かんねー。

「おいー。今日部活ないってよー?」

前の席に座る蓮。コイツは俺のバッテリー。でもって親友。

「マジかよー・・大会近いじゃねーか。何考えてんだあのバカ。」

「だよなー?って訳で自主練しよーぜ?なっ?」

「あー、分かった。」

いつのまにか俺のバッグの中からボールを出して弄んでいる蓮。

次の授業は英語。「宿題終わったー?」なんて聞いてくる蓮にノートを渡す。

つーか、今から写しだしたんじゃ間に合わなくね?

 

 

 

「あれー?今日練習お前らだけー?」

グラウンドでキャッチボールをしていた俺達に聞き慣れた声がかかる。

「あっ、間宮!!・・センパイ。」

蓮が危うくセンパイを付け忘れそうになりながら叫ぶ。

間宮っていうのは去年卒業してったセンパイで、元野球部のキャプテン。ちなみにキャッチャー。

あんまセンパイって感じのしねーセンパイで、頭もあんま良くない。(つーか悪い。)

「何しにきたんですかー?」

結構失礼?な質問に間宮は笑って答えた。

「真藤がさー今三年のさんってコに話あるみたいでさー。その付き添い!ついでに練習見てやろーかと思ったんだけどなー・・。」

って・・のコト?」

蓮が呟く。間宮が「多分ー。」と頷く。

真藤っていうのも元野球部のセンパイ。でもって、はコイツが好き。

「よーし、久しぶりにの球でも受けてみるか!春日、ミット貸せ。」

「しょーがないなぁ。」

隣で蓮達が気軽な会話してるのに、俺はついていけなかった。

 

 

 

 

「ねぇっ!あそこにいるの、真藤センパイじゃないっ?!」

教室から出た瞬間に驚いたように遥が叫ぶ。遥の目は昇降口に釘付け。

あたしも昇降口に目線を走らせる。遥が日直だったせいでほとんど人気がない昇降口。

「・・あ、ちゃんっ。」

下駄箱に寄り掛かっている人があたしの名前を呼ぶ。真藤センパイ・・?あたしの頭に疑問符が浮かぶ。

「あ、こんにちは・・どうしたんですか?こんな微妙な時間に・・。」

てゆーか、何で真藤センパイがココに?!隣の遥も疑問符を浮かべている。

「ちょっとちゃんに用があって・・。」

そう言って意味ありげな目線を遥に向ける真藤センパイ。

「じゃあっ、あたしは外で待ってるから。」

その目線に気付いたのか、遥はさっとあたしの元を去った。遥がいなくなったのを確認してから、真藤センパイが口を開く。

「夏休みの始めの週にさ、花火大会があるの知ってる?」

「ぁ、はい・・・。」

センパイの口から出てきたのは今からを誘いにいくハズだった花火大会のコト。

センパイはちょっと間をおいてから、あたしの目を見て言った。

「それさ、一緒に行かない?」

「・・・え?」

い、今何て?真藤センパイ、今何て言ったの?

あたしの頭は一瞬にしてフリーズ。センパイの目を見つめたまま、言葉が出なかった。

「だめ・・かな?」

以前のあたし、つまり真藤センパイが好きだった頃のあたしなら、即オッケーしてしまう話。でも・・・、

「センパイ・・あの、ごめんなさいっ。」

あたしが一緒に行きたいのは、だから。あたしはセンパイに向かって頭を下げる。

「そっ・・かぁ。残念ー。」

センパイが力なく笑う。あたしはもう一度センパイに謝った。

 

 

 

 

「おっ、真藤おかえりー。」

間宮がキャッチャーミットを振る。つられてその方向を見る。

真藤と天砂、そしてが昇降口から出てこっちに歩いてきていた。

「お前何やってんのー?」

「練習指導ー。俺イイ先輩だからー。」

蓮が小さく「イイ先輩ー?」なんて呟く。それは失礼だって。俺もそう思うけど。

「じゃあちゃん、また今度ね。良かったらメールして?」

「あっ、はいっ!ありがとうございましたっ。」

がペコッと頭を下げる。真藤が小さく片手を上げた。

「あっ、あたし蓮クンに話あるんだっ。ちょっとイイ?」

天砂が蓮の腕を掴む。そういえば蓮、天砂と花火大会行くんだっけ。この前「天砂遥って可愛いよなー。」とか言ってたし。

 

 

 

 

ちょっ、遥・・・・っ!!

蓮くんの腕掴んでさっさと部室に入っていく遥。ご丁寧にウインクまで飛んできた。

は素振り始めちゃうし。あたしは話しかけられなくって、その場に立ち往生。

今話しかけたら迷惑っ?てゆーかっ、あたしココにいたら邪魔っ?色々気になっちゃって、なかなか話しかけられない。

でもっ、何もしないで突っ立ってる方がおかしいよねっ?!頑張れあたしっ。

「ぁ、の・・っ!」

意を決して話しかける。・・・けど。

は素振りをしたまま、あたしを見てくれない。

「ねぇっ・・ってば!」

さっきよりも大きめの声で呼んでみたら、はやっと振り向いてくれた。・・・でも。

「・・何。」

冷たい声、冷たい表情。それはあたし以外のコに見せるあの優しい顔じゃなくって、でも・・あたしだけに見せるあの意地悪な顔でもなかった。

を本気で怒らせちゃった時のあの顔。何で・・どうしてっ?!あたし何かしたっ?!

「・・・マジ何?」

不機嫌そうな低い声で呟く。あたしは慌てて口を開く。

「あのねっ、夏休みの最初の週の土曜日にねっ、花火大会があるんだけどね」

「真藤と行けば。」

あたしの声を遮ってが言った。あたしに背を向けて素振りを始める。あたしは何を言われたのかよく分かんなくて、口を開けたまま固まった。

「なっ、何でそこで真藤センパイが出てくるワケ?!」

折角誘おうとしてるのにっ!あたしはの背中に向かって叫んだ。

「好きなんだろ?さっき誘ったんじゃねーのかよ。」

「ちっ、違うもんっ!誘ってないしっ!」

あたしの顔が熱くなる。必死に否定してるのに、はいつもみたいに意地悪く笑って言う。

「はいはい。俺なんか誘ってる間に愛しの真藤センパイは行く人決まっちゃうよー?」

何よっ・・あたしが誘おうとしてるのなのにっ・・・。考えるより先に口が動いてた。

「っ、あたしのコトなんて誘ってないしっ!」

思わず口から出てしまった言葉。何言ってんのあたし・・・バカにもほどがある。

「あっそー。言っとくけど俺は協力なんてしねーからな。」

冷たく言い放ってまた素振りを始める。・・・また喧嘩しちゃった。しかもかなり本気で。

「っ、何よのばかぁっ!!」

いつもみたいに「バカ」って叫んであたしはその場を走って逃げた。

いつもと違うのは目から零れる涙。・・もうやだ。何であたし素直になれないの・・・?

「ちょっとーっ!待ってよーっ!」

遥があたしに追いつく。あたしは涙を拭いて、遥に向かった。

「・・遥、もう無理だよ・・喧嘩しちゃったもん。」

 

 

 

 

夏休みになった。

あたしとはあの日以来一度も会話しなかった。・・目すら合わなかった。

遥は何度も励ましてくれたけど、クラスの女子に優しい笑顔を向けるなんかをあたしに誘えるワケなかった。

もう花火大会なんて諦めてた。・・・けど。

「それじゃあ!二番の英文を訳してくれ。」

あたしとは塾が一緒。(しかもクラスまで一緒。)必然的に顔を合わすコトになってしまう。

英文を訳すを見ながら、あたしはもう四日後に迫った花火大会のコトを考える。

・・はクラスのコと行くのかな?それとも男子?・・・もしかして奥石さん?

嫌な想像ばっかり浮かんでくる。そんな想像を頭から振り払って、シャーペンを握り直す。

あたしは受験生!夏を制する者は受験を制するって言うじゃないっ。集中集中!!

・・・・でも。

あたしの目が追ってしまうのは授業プリントでも、黒板の文字でもなかった。

あたしの少し前で問題に向かうだけが、あたしの瞳に映っていた。

あの時素直になれてれば・・・。最近のあたしは「後悔」ばかり。

「それじゃあ、今日はココまで!宿題をきちんとやってくる事!」

授業終了のチャイムと同時に、先生が授業の終わりを告げる。

どうしよう。全然集中できなかった・・。プリントをバッグに突っ込みながら、あたしは溜め息をつく。

には誤解されたまま、授業には集中できない。

もう嫌。・・・後悔するくらいなら、当たって砕けろっ!そういうCMあったじゃんっ。

あたしはバッグを掴んで立ち上がった。・・今から走れば、間に合う・・よね?

あたしは走った。はいっつも自転車で来てるから、駐輪場にいるハズ。

っ!待ってっ。」

駐輪場で自転車に鍵を差し込んでいた彼の名前を呼ぶ。

「・・・何。」

そのまま鍵を回して自転車を出す。この前と同じ冷たい声。

「あたしっ・・あたし真藤センパイと花火行かないよっ。」

が好きだから。だから、と行きたい。

「だから?」

そのまま自転車に乗ろうとしたのシャツを掴む。・・今日こそ、ちゃんと誘うんだからっ。

「だからっ・・だから一緒に花火行こっ。」

が振り向く。あたしの目を見て、それから舌打ちした。

「・・んだよ、真藤の代わりかよ。」

そのままはシャツを掴んでるあたしの手を振り切って自転車をこぎ出した。

「っ・・違うからっ!あたしが一緒に行きたいのだからっ!」

暗闇に消えてく彼の背中に、あたしは叫んだ。彼の背中が涙で滲んだ。

 

 

 

 

 

by Ayuna**

夏休み企画の前編です☆いかがでしたでしょうか?

今回の主人公タチの設定「喧嘩友達」は、凛檎の作品では初でしたが、この設定もスキです♪
さりげなーく凛檎は間宮センパイのキャラが好きです。

凛檎も受験生なので夏休み中にどれだけの小説がUPできるか分かりませんが、せめてこの小説だけは・・と思います。

感想など頂ければ嬉しいです♪