・・もう無理だよね。『真藤の代わりかよ』・・昨日彼が言った言葉が、まだ耳に残ってる。

 

 

花火   後編

 

 

「ちょっとー?塾行かないのー?」

一階から聞こえてくるお母さんの声。適当に返事しながら、机の上に置かれたバッグを見る。

・・行かなきゃいけない。でも、に会うのが怖くて。昨日聞いた彼の言葉ばかり思い出してしまう。

「ちょっと、ー?」

お母さんが階段を上ってくる音が聞こえてきて、あたしは慌てて部屋を飛び出す。

階段で擦れ違ったお母さんに行ってきますって声かけて、携帯いじりながら外に出る。

やば、時間ない。自転車に乗って風をきる。いつもは使わないけど、今日は例外。

・・もし、駐輪場でに会っちゃったら?どんな顔して会えばいいの?

・・・いつもと同じでいいじゃない。でもいつもと同じ顔なんてできる?今のあたしにそんな余裕あるの?

考え出すと止まらない。悔しいけど、こんなにもがスキ。

・・時というのはイジワルで、あたしがまだ心の準備もできてない内に塾に着いてしまった。

とりあえず、駐輪場にの姿はなし。ささっと自転車を止めて、が来ないうちに(もう来てるかもしれないけど)駐輪場を離れる。

 

 

「ふぅーっ。」

教室のちょっと前で立ち止まって深呼吸。大丈夫、気にしないっ。も多分気にしてないしっ!・・・それはちょっと悲しいけど。

「・・・・よしっ。」

行くぞっ!・・・・・・・・・ぁー・・やっぱりムリッ!!

後ろを向いたあたしの目に飛び込んできたのは・・・先生。

さん?・・・何やってるの?」

げっ!しかも理数系デブ(失礼。)だしっ。やめてその無意味な怪しい笑顔っ。

「さっ、教室入って!授業始めるよ?」

先生の無意味な笑顔に押されて、あたしは教室に入る。案の定、あたしの席の少し前にはの姿。

受験生だし、塾サボんないなんて当たり前か。そんなコト思いながら席につく。

今日こそ集中して授業受けなきゃっ。あたしだって受験生なんだから。

「それじゃあ、テキスト15ページ。」

先生の声。みんながテキストを開く音。ほらっ、のコトなんて今は忘れてっ!あたしは自分に言い聞かせた。

「つまり、整数としてαをおいた訳だから・・」

「そうっ!宮内さんの言う通り、βは5だね。ではαは・・」

「ここでαの式にβを代入すると・・」

延々と続く数学の授業。みんなが黒板を見つめる中で、だけが説明も聞かずに何かを書いていた。

やっぱ頭いいな・・。先生の説明してるコトなんて、もう分かってるんだよね、きっと。あたしは先生の説明を聞きながら必死で考えてるのにな・・。

そんなコト考えてたら、いきなりが振り向いた。・・・しかも一瞬ダケ。

やばっ。目合った・・。あたしが見てたのバレた?!途端に騒ぎ出すあたしの胸。

で、次の瞬間。

「きゃっ!」

クラス中の目があたしに集まった。先生も説明を中断してあたしを見つめる。

「・・・?どうかした?さん?」

「なっ、何でもないです・・。」

あたしが不自然な笑みを浮かべて、みんなが不思議そうな顔してる・・のに。一人は机に伏して笑ってる。

・・・あたしが声を上げた理由が自分だからだろうけど。

あたしは恥をかく原因となった物を摘んだ。さっきが多分、あたしに向かって投げた丸まった紙。多分、テキストの切れ端。

何これ・・?ものすごく堅く握り締められたっぽい紙を恐る恐る開く。

 

 

『しあさって、ゆかたな』

 

 

汚いひらがなで書かれた短い文。

もう一度読んで、更にもう一回読んで、裏返して、振った。・・・・異常無し。

・・・・・なんでっ?!どうしてっ?!な、何がどうしたの?てゆーか、何でいきなりっ?!

「と、いう訳でαは8になる訳だけど、さん、なぜだか説明できるかな?」

「分かりません・・。」

ぼやけた感覚の中で、あたしはぼんやり先生の問いに答えた。

「えっ!さっき説明してたコトを言えばいいんだけど・・なぜ分からないのかな・・?」

「あたしが聞きたいくらいです・・。」

何でいきなり・・・?そんなの分かったらすごい。先生、分かるんだったら教えて?

別の世界に飛んでるあたしのために、先生はまた説明を始めた。

もちろん、あたしは集中なんてできなかった。脳裏に浮かぶ一つの考えが、あたしの頭から離れない。

『一緒に・・行ってくれるってコト?』

冗談かもしれないし、あたしに宛てた物でもなかったかもしれない。でも・・・もしかしたら?

やめてよ。期待なんてさせないで。あたし、おかしくなる。

そのまま授業はどんどん進んで、あたしはまた時間を無駄にした。

 

 

「ちょっ、待って!」

授業後、さっさと教室を出て行くを急いで追いかけるあたし。高めのヒールでバランスを崩しそうになりながら、の腕を掴む。

「ねぇっ・・数学の時にさっ、これっ!」

握り締めていた紙をに突き出す。

「うるせーな。つーか離せ。」

はあたしの目を見てくれない。やっぱり・・やっぱり冗談だったの?

・・これ、さ・・本気?」

あたしの声とは思えないくらい小さくて、か弱い声。

「・・浴衣以外却下な。六時に学校正門。」

「・・ホントに?」

「しつこい。」

怒ってる声じゃない・・よね?本気で言ってくれてるんだよね?

あたしの体から力が抜けてく。なんか涙が出そうになった。・・この前とは違う意味で。

「あっ、ありがとっ!ちゃんと浴衣着てくねっ。」

満面の笑顔でそう言ったのに、返ってきたのは「お前がありがとう・・?気持ち悪ー。」だった。言い返そうとしたら、逃げられたけど。

・・・でも、そうかもしれない。あたしはいつもに対して素直になれなくて、ありがとうなんて言えなかった。

からもらった紙を握り締める。お母さんに浴衣買ってもらおっ。

 

 

 

 

「はい後ろ向いて・・はいっ、出来た!」

花火大会当日。に言われた通り、浴衣をお母さんに着付けてもらう。

紺色の生地に色とりどりの花火と蝶の模様。これはあたしが選んだ柄じゃなくって、お母さんが選んだ物。

黄色が基調の明るい浴衣を選んだあたしに、お母さんが見せてくれたこの浴衣は、なんだか大人っぽくて、それでいて可愛かった。

「ありがとうお母さんっ。どぉっ?似合うー?」

鏡の前でくるくる小躍りするあたしにお母さんは「食べ過ぎるとキツくなって苦しいよ?」とか注意をしてる。

「で、これ巾着。必要最低限の物以外は入んないからね。小さいんだから。」

「はーい。」

とりあえずケータイ。あとはハンカチでしょ、お財布でしょ・・。

時計で時間を確かめる。よし、今から歩けば間に合うっ!てゆーか、早めに着けるし。

下駄を履いて外に出る。な、なんか緊張してきた・・・。

お母さんに言われた通り、ちょこちょこと小股であたしは歩いた。

今日はちゃんと大人っぽく振る舞うんだから!が何か言ってきてもいつもみたいに喧嘩なんてしない。

一緒にかき氷食べながら花火見るっ。シロップはレモンがいいっ!

あたしがオイシイ考えに浸っていたら、急に誰かに肩を叩かれた。

「ひっ?!」

驚いて振り向いたあたしに笑いかけてきたのは・・真藤センパイ。

「あー、やっぱりちゃんだー。ごめんね、驚いた?」

「しっ、真藤センパイ・・もう心臓止まるかと思いましたー。」

笑ってるセンパイに向かってちょっと頬を膨らませる。

「あはは、すっごい驚いた顔してたもんねー。」

「もーっ。」

センパイにつられてあたしも笑う。とは違う優しい笑顔。・・の優しい笑顔をあたしが見る日はくるのかな。

ちゃん浴衣可愛いね。花火行くんでしょ?」

「あっ、はい。」

可愛い、って言葉にどうしても反応してしまうあたし。・・きっと、は言ってくれない。

「えー、誰?蓮?」

冗談っぽく頬を膨らませてあたしを睨むセンパイ。あたしは慌てて首を横に振る。

「あー、分かった。?」

センパイの目が楽しそうに細まる。更に慌てるあたし。

「あっ、あのっ・・あたしとはそんなんじゃなくてっ。」

慌てて言い訳をするあたしに、センパイは優しく微笑んだ。

「だってあそこにいるし?早く行ってあげな?」

センパイの言葉に振り向くと、ちょっと先の学校の正門に寄り掛かってるがいた。

「あっ、はいっ!さようならセンパイっ。」

ホントに来てくれたんだっ。なんだか嬉しくなって、勢いよくセンパイに向かって頭を下げた。

 

 

 

 

・・・すっげーイライラする。

真藤と楽しそうに喋った後、嬉しそうに勢いよく頭を下げた

・・・ムカツク。理由も分かんねーけど。

っ。ごめんね待った?」

俺のリクエスト通りは浴衣。紺色の大人っぽい浴衣。

「・・別に。つーか真藤行かせちゃっていいんだ?一緒に行きたいんじゃねーの?」

俺の言葉を聞いた途端に曇る彼女の表情。

『あたしが一緒に行きたいのだからっ!』この前そう言った

・・・だから何だよ。じゃあ何で真藤とあんな楽しそうに喋ってんだよ。俺の時はあんな顔しねーくせに。

「なんで・・?最近おかしいよっ。真藤センパイのコトばっかり・・。」

・・つーか、なんで俺こんなコト気にしてんだよ。が誰好きだろーが俺には関係ないし?

「・・悪かったなっ!早くしろよ時間ねーぞ。」

「え、うん・・。」

が俺の後ろをちょこちょこ歩き出す。・・今更だけど、コイツ俺の要望に応えてんだよな・・。

「お前もっと速く歩けないのかよ。」

「なっ、あたし今浴衣」

言い返そうとしたの右手を握る。は一瞬固まったけど、反抗はしなかった。

 

 

 

ホントおかしいよっ。なんでいきなりっ・・・・?

繋いだ手から伝わるの体温。あたしの胸は爆発寸前。無言で歩き続けるあたし達。

「お前さぁ」

急にが口を開く。立ち止まって、あたしを見る彼。

「なっ、何?」

「なんで、・・・悪ィやっぱ何でもねーや。」

そのまま歩き出す。あたしは慌ててに続く。

「何それっ?気になるじゃん。」

「なんでもねーって。気にすんな。」

「えー。」

 

 

なんでこんなコト聞こうと思ったんだ?の抗議の声を背中に聞きながら俺は歩く。

『なんで俺を誘ったのか』なんて、聞いても意味ねーじゃん。にはそういう感情ないんだし。

・・・つーか俺にもない。・・・ハズだったんだけどな。

「あっ、見てーっ!かき氷あるー!」

河川敷まで着た俺達。は夜店を見てガキみたいに騒いでいる。

「あのなぁ・・。」

「あっ、アンズ飴っ!あーっ、タコ焼きーっ。」

食いモンばっかだな・・。着ている浴衣は大人っぽくても、中身は全然いつもの。・・当たり前か。

「ね、何か買お?あたしお腹すいたー。」

いつの間にか俺の隣に来てるし。彼女の耳元で光るイヤリングに俺は今頃気付いた。

「とりあえず全部見なきゃ。行こっ。」

「全部って・・。お前この河川敷どんだけ長いか知ってんのかよ?」

「大体見れればいいのっ。言葉のアヤだもんっ!それに長いじゃなくて広いだよっ、多分っ。」

「はぁ?つーか絶対長いだし!」

「広いだよっ!」

いつもと変わらない会話、

・・・それなのに、何か違う。いや、いつもと同じだけど、同じじゃない。いつもよりも強くなってる俺の中にある『何か』。

何なんだよ、マジで。この『何か』が何なのか分からない。

 

 

「あっ。」

腕を引かれるような感覚と、の声。自分の考えに浸りながらを引っ張っていたらしい。

振り向いた先にあったのは小さな夜店。その前で立ち止まる

数歩戻っての目線の先を見る。夜店の売り物はどうやらガラス細工。

が見ているのはガラスで出来たハートの形をしたネックレスだった。

『eternal love』と刻まれたそのガラスのハートは二つで一つになるように割れていた。

「お前そんなの誰とつけるワケ?」

俺の声に思いっきり反応する。「いっ、いつからいたのっ?!」なんて焦りながら言ってるし。一緒に来てるんだから当たり前だろ・・。

「別にっ?!ただちょっと可愛いなって思っただけっ。誰とつけるとか考えてないっ!」

何がちょっとだよ。めちゃくちゃ可愛いって顔してるし。・・しかも顔赤いし。誰かと一緒につけたいんだな。

その相手は多分真藤。だってはずっと前から真藤のコト好きだったから。

俺にもたくさん相談してきた。『同じ部活なんだから協力してよっ。』とか、よく言われた。

バレンタインにチョコ渡しに部室に来たりとか、誕生日にカチカチになりながらおめでとうございますって言いに来たりとか。

そのの行動一つ一つがムカついた。いつの間にか、の恋には協力しなくなっていた。

「行こっ。あたし何か食べるっ。」

歩き出した彼女の後ろ姿を、俺は複雑な思いで見つめた。

今、お前の隣にいるのは俺でいいのかと。

 

 

「えー、がイチゴーっ?!」

「うるせーなっ!悪いのかよっ。」

屋台のオバチャンにお金渡してかき氷を受け取る。そのシロップは・・・イチゴ。

「悪くはないけど・・似合わなーいっ。」

イチゴって可愛いイメージだもんっ。には似合わない。もちろんあたしはレモン。

「うるせーな。別にいいだろっ。」

かき氷を口に含むをなんだか子供を見るような感覚で見つめるあたし。いつもと違う彼の一面にドキドキするのはあたしだけ?

あと少しで花火が始まるとあって、ものすごい人の量。あんまり背の高くないあたしはすぐ迷子になっちゃいそう。

「もうちょっとさ、人少ないトコ行こうよ。」

イチゴのかき氷食べてるに言ってみる。そんな場所あるのかなー、なんて思いながら。

「あー、分かった。」

そう言って歩き出す彼。さっすが野球部!よく練習で河川敷使ってるもんね。

 

 

 

が連れていってくれた所はあたしのリクエスト通り、人が少ない・・っていうか、いない。ブランコしかない公園みたいなトコだった。

ちょっと屋台とかからは離れた場所にあるこの場所。野球部が河川グラウンドで練習した後、蓮くんとよく自主練する場所らしい。

「てゆーかさ、と蓮くんってホント自主練好きだよねー?」

唯一の遊具であるブランコに腰掛けてあたしが言うと、は「悪いかよ。」って言った。

悪いなんて言ってないしっ。・・てゆーか好きだし。練習頑張ってる

でもそんなコト、口が裂けても言えない。あたしは小さくブランコを揺らす。

花火が始まるのあとどれ位かな?なんて思ってケータイを開く。

『メールを受信しました』という文字。やばっ、全然気付かなかった。でも・・今は見ない。

そのままケータイをしまって目の前のを見つめる。は自分のケータイの画面を見つめていた。

どうしたんだろ・・誰かからメールかな?誰だろ・・蓮くんかなぁ?だったらあたしも遥からメール来てるかも!じゃあさっきのって・・?

急いでケータイを開くあたし。・・・・それが間違ってたんだ。

送信者は『真藤センパイ』。内容は・・『今から会えない?』。

え、ちょ・・どうしよ。困って顔を上げたあたし。あたしとの目線が絡まる。

・・・断らなきゃ。あたしが一緒に行きたくてを誘ったんだから。・・そう思った矢先。

「♪〜♪〜♪〜」

鳴りだすあたしのケータイ。・・真藤センパイからの電話だった。

「・・出れば?真藤からだろ、それ。」

ケータイを持ったまま固まるあたしにが言う。・・・なんで・・どうしてそんなに冷たい声なの・・?

あたしが何も言えずに固まっていると、は冷たい声のまま言った。

「・・つーかさ、俺も今奥石に呼び出された。俺奥石と花火見てくるから。お前も真藤と見れば?」

そのままあたしに背中を向けて歩きだす彼。鳴り続けるあたしのケータイ。

やだよ・・行かないでっ。あたし以外の女のコのトコになんて行かないでよっ。

 

・・・そう叫べたら、素直にのコトを求められたら。

それができたとしたら・・あたしはあなたと一緒にいられた?

あたしはの後ろ姿を見つめるコトしかできなかった。・・の後ろ姿が道を曲がって見えなくなった時・・あたしはブランコから崩れ落ちて泣いた。

涙が止まらなかった。

が言う通りあたし浴衣着てきたよ・・?どうして、どうしていなくなっちゃうの・・・?

紺色の浴衣が涙で濡れた。ケータイが、鳴り止んだ。

 

 

 

 

 

奥石に呼び出されたなんて嘘。あのメールは・・・真藤から。

『今からちゃんかりていい?』

詳しいコトなんて書いてなくっても、理由くらい分かった。・・アイツが、真藤がに告白するんだってコトくらい。

だってアイツら両想いだから。はバカだからそれに気付かないだけ。

暗くなった道を一人で歩く。屋台の道はやっぱり人でいっぱいだった。

「・・・・、。」

ある店の前で立ち止まる。さっきが見ていたガラス細工の店。

割れたハートのネックレスが目に止まる。『eternal love』の文字。

「・・・バカじゃねぇの、アイツ・・。」

真藤とつけたいなら真藤と来れば良かっただろ。なんで俺なんか誘ってんだよ。

彼女の耳元で揺れてたイヤリングが脳裏に浮かぶ。あれはホワイトデーに俺があげたイヤリングだった。

真藤にチョコ渡せたってすげぇ喜びながら、俺にも『いつもありがとう!』って渡してきた

義理だろーがなんだろーが俺にとっては特別で。理由も分からなかったけど、アイツからのだけ自分でお返しを買いに行った。

直感で選んだゴールドのイヤリング。センスがないとか可愛くないとか言われたらどうしようとか思ったけど、中身を見たはにっこり笑ってこう言ったんだ。

ありがとうっ!大切にするねっ。』

の言葉が、笑顔が浮かぶ。ガラスのネックレスを見ていたの横顔。俺の指摘をはぐらかす焦った声。

 

 

・・・それが全部、真藤のモノになる。

 

 

「おじさん、これ下さい。」

 

・・・・嫌だ、そんなの。

なんにもせずに終われるか。男なんだから直球勝負くらいしてこいよ、俺。

右手の腕時計を見る。花火が打ち上がるまで、あと十分。

俺と蓮の『対真藤☆自主練広場』(名付け親はもちろん蓮。)に向かって走る。俺はが好きだから。

 

 

どうしようもなく好きなのにそれを認めたくなくて、まるで好きな女のコをいじめる小学生のガキみたいにを怒らせてきた。

真藤に惹かれてるを見る度にバカみたいに嫉妬して、意味もなくに冷たく当たって。

・・・今更こんなコトに気付いたところで、俺の気持ちが報われる可能性はほとんどゼロ。

もう真藤とくっついたかもしれないし、更に悪かったらもうあの場所にはいないかもしれない。

でも・・何もしないで諦められるか。『何もしないで身を引く』なんて、一番嫌いなんだよ。

カッコ悪くても、バカみたいでも、最後まで諦めないで戦う。終わるまで試合はどうなるか誰にも分かんねぇんだよ。

左手に持った袋を強く握り締める。

俺の目線の先、広場からはちょっと離れた道でしゃがみ込んでいる浴衣姿のチビ。

「・・っ、?」

チビが顔を上げる。・・だった。目を真っ赤にして、目尻に涙溜めて。頬にはまだ乾ききっていない涙の跡があった。

「・・・・?なんで、奥石さんは・・・?」

汚れた浴衣、崩れた髪型。何かを考える余裕なんてなかった。

気付いた時には、俺はを抱き締めていた。

「っ、・・?」

「・・・黙れよ、バカ。」

が真藤の所になんか行かないように、俺の腕の中から逃げ出せないように、俺はをキツくキツく抱き締める。

「・・・どうしたの・・?あたし、夢でも見てる・・?」

の声が聞こえる。・・・夢なんかじゃねぇよ。

「なんでもクソもねぇ・・お前が好きだからだろ。」

 

何か熱いモノが俺の胸に落ちる。

「っく、うぅ・・・ばかっ・・ばかばかばかぁ・・。」

泣き出したを更にキツく抱き締める。の腕が俺のシャツを掴む。

「・・あたしがっ・・好きなのっ・・真藤センパイじゃっ・・・ないのにぃ・・・いっつも・・・・っ。」

俺の腕の中でしゃくり上げながらくぐもった声を上げる

「あたしっ・・・あたしはっ・・が好きなんだよっ?じゃなきゃイヤだよっ・・。」

の言葉のすぐ後に、花火のカウントダウンが始まる。の顎をそっと掴んで持ち上げる。

っ・・?」

 

 

 

 

花火が上がる。俺は泣きじゃくるの唇にそっと触れた。

 

 

 

 

「・・っ?!」

花火があたしとを照らす。耳まで真っ赤になった

「う、そ・・・。今、今・・・?」

し、したのって、キ・・ス?震える指で唇に触れる。あたしの唇に残ってるの唇の感触。

「・・・、目閉じろ。」

恥ずかしそうに目を伏せたまま言う。言われた通りに目を閉じるあたし。

首に回されるの腕。あたしの体がビクッと強張った時、が「開けろ。」って言った。

「あ・・・。」

花火に照らしだされたのは、あたしがとつけられたらな、なんて思いながら見ていたガラスのネックレスの片割れ。

驚いて顔を上げたあたしの目の前には真っ赤になってるがいた。

「・・、これ・・?」

「あぁ、だから・・その、やるよ。」

欲しそうにしてたし、とかなんとかボソボソ言いながらは照れ臭そうに頭をかいた。

「・・・いいの?」

「・・っ、黙って受け取れよバカっ。」

そのまま花火を見る。もう一つの片割れはしっかり彼の胸元で輝いていた。

「・・。」

「ん?」

「・・・・ありがと。」

やっと、素直になれた。・・あたしもも。

この前は「気持ち悪ー。」とか言ったも、「・・おぅ。」って言ってくれた。

 

 

大きな花火が、あたしとを照らす。

まるであたし達を祝福してくれているように。

 

 

 

 

 

* 夏の始まりを告げる花火と共に、あたし達の恋はこれから始まる。 *

 

 

 

 

by Ayuna**

・・・やっと、やっと書き終わった・・・!
どうも、彗名 凛檎です。やっと夏休み企画を書き終えるコトができました。

ものすごく長くなってしまいましたが、最後まで読んで下さった皆様、本当にありがとうございます!
よろしければ感想を下さいね☆

それでは。